社会的ひきこもりやニート、不登校が社会的に注目されるようになって、長い年月が経ちます。
私たちと同じような目的で活動を行っている団体は、全国に数多くあります。特に、この数年で非常に数が増えた印象があります。
長い活動の歴史を持つ団体、先駆的な試みを行っている団体も数多くあり、できれば連携などをさせていただきたいと考えています。また、私たちも見聞を広げる必要があります。
これまで、つくば市社会福祉協議会の「You・遊・広場」さん、東京都文京区の「公益社団法人青少年健康センター 茗荷谷クラブ」さんの日常の活動の様子を見学させていただきました。
そして、12月10日には、東京新宿区にある「シューレ大学」さんを見学させていただきましたので、その報告をします。大学という名前ですが、18歳以上を対象に、大学のような講義・ゼミ活動を行うことができるフリースクールです。
▼NPO法人 東京シューレ大学
http://shureuniv.org/
住宅地の中にある小さな専門学校風の建物でした。写真はシューレ大学さんのサイトからお借りしました。
「シューレ」という名前は、不登校の子どもの支援関係者ならばほとんどが知っているだろうと思います。それほど有名な団体です。
1985年にご自身も不登校のお子さんを抱えていた奥地圭子さんがアパートの一室で始めたフリースクールから始まり、現在はNPO法人として数校のフリースクールと、学校法人シューレ学園まで運営するまでになっています。この分野のパイオニアの一つの団体だと思います。
サイトウがシューレを知ったのは、フリースペースでボランティアを始めた数年前からなのですが、奥地さんのお考えや、シューレ大学の理念・授業内容、そして、そうそうたるアドバイザー(上野千鶴子先生や鎌田慧さんなどすごいメンバー)を知り、かねてから、ぜひ見学させていただきたいと思っていました。
当日は、ご家族のEさんと一緒に行きました。まず校内をざっと見せていただいた後、常勤スタッフで社会学者でもある、朝倉景樹さんにお話をうかがいました。
まず、一番印象的だったのは、学生さんの目が力強い、ということでした。
当日は、ちょうど一部の学生がゼミ活動の一環である演劇の発表が近いとのことで、その準備をしていました。その学生さん数人と目があったのですが、みんな力強い目をしていました。また、生き生きとしていました。
もう一グループは、パソコンの前で何やら作業をしながら話し合っていました。パソコンでデザインか何かをしている様子でしたが、こちらの学生も背中から力強さが感じられました。
特に印象的だったのは、受付にいた女性でした。この方も学生さんだと思います。こちらへどうぞと案内をしてくれ、部屋に入ったところでお茶を持ってきてくださったのですが、とても力強い、芯の強そうな目をしていました。後でいただいたパンフレットを見ると、「在学生の声」にも登場していたので、中心的な学生の1人なのでしょう。とても、その立ち姿が印象的でした。
ほんの数人しか学生さんを見ていないので、確定的なことは言えませんが、とても不登校だった方々とは思えませんでした。皆さん、力強さがありました。
こういう団体を見学して、参加者の方とお会いすると、「そういうことで悩んでいるように見えない。普通の方に見える」と思うことはよくあります。でも、シューレ大学の学生さんは、それとも違って、なんか自信を持っているような、力強いような気がしました。褒めすぎでしょうか(笑)。
もちろん、そのときその場にいたのがたまたまそういう学生さんだったということもあるでしょうし、学校に来れない学生さんもいるでしょうから、そういうバイアスもあるでしょう。
さて、学校の説明に移りましょう。といっても、詳細は上にリンクを貼った「シューレ大学」のサイトを見ていただいたほうが正確なので、朝倉さんのお話を聞いてサイトウが受け取ったものを紹介するにとどめましょう。
今は大学といっても学校が手取り足取りで高校と変わらないようです。だから、シューレ大学の場合、大学のゼミか、大学院に形態が似ていると思います。ただ、そういう学びの場を提供するというだけで、フリースクールですから、もちろん学士などの学位は取れません(大卒にはならないということです)。
学生さんは入学したら、まず、このシューレ大学で何を学びたいかを決め、それを1年間でどのように学んでいくかという計画を立てます。この辺が本当にゼミっぽいです。
学校側は、学生が自分で決めた「学びたいこと」が実現できるよう、外部の協力者の力も借りながら、それを専門的に学べるゼミを作っていく、という形のようです。「学びたいこと」は哲学だろうが、歴史だろうが、演劇・音楽だろうが、映画製作だろうがなんでもあり。
ゼミは、似たような「学びたいこと」を持つ学生数名とスタッフ1名から構成されます。スタッフはゼミの指導教員(チューターのような援助者のほうが近いでしょうか)のような役割を果たすようです。シューレ大学には朝倉さんをはじめ、4人のスタッフがいるとのことですが、朝倉さんが社会学者であるように、それぞれ専門性を持っているので、その専門性に応じてゼミの担当をしているとのことでした。
こちらも、シューレ大学さんのサイトからお借りしました。講義の風景でしょうか…。
ゼミ活動の成果として、学生さんが作った大学のパンフレットを見せてもらいました。一応プロの僕が見ても、素人の学生さんが作ったとは思えないほど、デザイン性に優れたものです。プロのデザイナーの協力者もいるので、それを教えられる環境があるのでしょう。シューレには、関連会社に東京シューレ出版という出版社や卒業生が起業して作ったデザイン会社「創造集団440Hz」があり、卒業生がそこで編集者、デザイナーとして勤めているとのことでした。
▼東京シューレ出版
http://mediashure.com/
▼創造集団440Hz
http://creators440.org/
このようなゼミ活動のほか、一般の大学のような講座もあります。そこで、歴史や語学など、様々な講義が受けられるとのこと。ただし、共通カリキュラムはなく、講座も自分で選ぶとのことでした。
現在、学生さんは30数名。講座は20以上あるそうです。
学生は、自分の「学びたいこと」を自分で立てた計画に合わせて自ら学ぶほか、講義などに参加しながら1年を過ごします。シューレ大学には卒業はなく、自分で「学び終わった」と思えば卒業。「まだまだ学びたい」と思えば、何年学んでも構いません。すべて、自分で決める、という形です。
朝倉さんが強くおっしゃっていたのは、「この大学で自分の生き方を創ってほしい」とのことでした。「生き方創造」が大学の理念です。
不登校の子どもたちは、学校生活のなかで自分を否定的にみるようになってしまっている。まず、そのような自己否定から自分を解放し、自分を見つめて自分が何者で何をしたいかを考え、自ら学びをつくり、それを学び、その関心や学びをどう生業に結び付けるかという、自分の生き方を創る。これがこの大学の目的だと、おっしゃっていました。
見学したときに見た学生さんがみんな生き生きとしていて、力強かった理由がわかるような気がしました。
もちろん、入学した学生はすぐに馴染める訳でもなく、週に1日しか来ない学生さんもいます。来なくなってしまう学生さんもいます。そういう場合は、スタッフが様子伺いの連絡をしたり、相談に乗ったり、学校に馴染めるようなフォローもしているそうです。
少々、褒めすぎました(笑)。このように、とてもシューレ大学はとても印象深かったです。ご説明いただいた朝倉さんも、とてもいい印象を受けました。
一回見学しただけですし、お話がすべてではないでしょう。途中で来れなくなってしまう学生さんも多いはずです。みんなが、自分の生き方を創ることができるとは思えません。けれど、そんなふうに変わる機会を与えてくれそうな場だと思いました。ご興味のある方は、ぜひシューレ大学のサイトを見てみてください。
難を言えば、学費は高すぎると思います。入学金15万円、学費年間55万4400円(消費税込み)なら、専門学校に行ける金額です。奨学金を受ければ本当の大学にも行けるかもしれません。ただし、学生数とスタッフ数から計算すれば、多分、それで運営費ギリギリなのではないかと想像できますが…。
最後になりましたが、シューレ大学の皆様、朝倉様、当日は見学とご説明をいただき、誠にありがとうございました。とても印象深く、勉強になりました。心より御礼申し上げます。